第16話「殿様ときつね」
第2回



参考文献
「臼杵の歴史物語/藤澤勝美」

 

 白いきつねたち

 
「くそっ。きつねのやつが俺をだまして『こえびしゃく』をキジにばかしおったな。」

 と変な理屈をつけ、腹を立てて狩りをとりやめてお城にさっさと帰ってきました。


イラストそして、お城のきつねたちを集めていいました。

 「これまで、お前たちをずいぶん可愛がってやったのに、その恩をあだで返すとは。もう、許しておくわけにはいかぬ。いますぐ、さっさとこの城からたち去れ。」

 ところが、見に覚えのないのはきつねたちです。
 「私たちの中に殿様をばかすような狐がどうしていましょう。どうか、お城から追い払うことだけはしないで下さい。」と頼みましたが殿様はがんとして聞き入れようとはしません。とうとう、きつねたちは、
 「コーン、コーン。」と泣きながら城を離れていきました。




 イラスト 
それから何年かたって、殿様が勤めのために江戸に上って屋敷に住んでいたときのことです。ある晩のこと、屋敷の近くの家から火事が起こりました。
おりからの風によって、火はどんどん広がり、殿様の住んでいる屋敷が今にも焼けそうになりました。家来たちは必死で消火にあたり、火事の広がるのを防ごうとしましたがなかなかくい止めることができません。


 イラスト ところがその時のことです。
どこからともなく、白い服を着た火消しの集団が現れました。そして、みんなが大騒ぎしているのをしり目にして、瞬く間に火事を消し止めたではありませんか。
 しかも、火事がおさまるのを見届けると、音もなくすうっと姿を消してしまいました。さて、その日のうちに火事の騒ぎを聞きつけて、あちらこちらの殿様が臼杵の殿様の屋敷に見舞いに訪れました。殿様たちの間では、火消しの集団の噂で持ちきりでした。

 「あなたはいい家来をもたれて幸せですねえ。」
とほめてくれますが、臼杵の殿様はいっこうに心当たりがありません。
 「えっ。は、はい。」

と返事はしたものの自分は首をかしげるばかりでした。


 イラスト その晩、殿様は火事騒ぎに疲れてしまい、早めに休むことにしました。ところが、夜中近くになったときのことです。たくさんのきつねたちが殿様の枕元にたって、

 「お殿様、お殿様。今日の火事を消すお手伝いをしたのは我々きつねたちです。いつぞやは、お殿様からお城をでていくように追い払われましたが、何とかお手伝いする機会がないかと、人目に付かないようにこの江戸の町にやってきていたのです。」

 と言うではありませんか。殿様はハッと目を覚ますと、
 「おお、わしの屋敷を守ってくれたのはお前たちだったのか。」
と感心するとともに、狩りの時にきつねたちを疑った自分の身勝手さを反省しまし。そして、さっそく、臼杵地方の白いきつねたちを、もとのようにお城に住み着くことを許すことにしました。それからというもの、白いきつねたちはいつまでも、いつまでも、臼杵のお城や殿様を守り続けたということです。

おしまい