今回は、秋の果物としてわたしたちの生活になくてはならない柿のお話です。
 柿という名前が日本の文献に初めて出てきたのは、平安時代の弘仁6年(815)、嵯峨天皇の代に編集された「新撰姓氏録」という書。その中には、敏達天皇の代(572〜585)に、門のそばに大きな柿の木があるので、天皇がある者に柿本という性を付けたという話が載っているのです。これが事実だとすると、6世紀の半ばには柿の木はすでに庭に植えられていたことになります。
 江戸時代の安永4年(1775)、日本にやってきたスウェーデンの植物学者ツンベルグ(1743〜1822)は、柿に「Diospyros Kaki」という学名を付けました。彼は柿を見て驚き、東洋のリンゴと呼んだそうです。学名からも日本独自の果物であることがわかりますが、”Diospyros”とは「神様の食物」という意味。神社仏閣に多い柿の実が、神々の食べ物のようにおいしいことを表現した言葉ではないかといわれています。
 そういえば、”柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺”という句はあまりにも有名な正岡子規の作品ですが、ここにもなぜか、というか当然というか、「柿」と「法隆寺」が出てきます。
 柿は日本の山野に野生らしきものが多く、日本に原生したものであると長い間、信じられてきました。しかし、古代遺跡の発掘調査が進むにつれ、弥生時代から奈良時代にかけて大陸から渡来したものとの見解が浮上してきたのだとか。ただし大陸には甘柿は存在しなかったらしく、秋になるとたわわに実る甘柿はやはり日本オリジナルの果物なのです。

《 柿の実の効用 》  
「神様の食物」といわれるだけあって、柿には効用がいっぱいです!
●飲みすぎの酔いざまし(干柿でもグッド)●解熱●咳止め●痰切り●下痢の腹痛止め●脳出血●干柿を黒焼きにして湯で飲むと吐血にいい●マムシにかまれた時の毒消し●渋柿の生汁を塗ると火傷が治る●干柿を酢につけた汁は虫さされの毒消しになる ●小川の流れに柿渋を落とすと、鮎の漁獲法になる
柿を食べると身体が冷えるといわれていますが、これはおいしいのでつい食べ過ぎてしまうことから来た迷信。何ごともほどほどに、がいいようですね。

※参考文献
「食卓に咲く華いい話/富民協会刊」「グルメの哲学/丸山学芸図書」「俳句歳時記/角川書店刊」