天高く馬肥ゆる秋。食欲の秋の到来とともに、グルメたちが一斉に騒ぎ出す食材といえば”松茸”です。6月下旬から11月まで松茸はスーパーの店先に並んでいますが、ほとんどが中国やカナダ、アメリカ、ヨーロッパからの輸入物。アメリカでは松茸を食べる習慣がなく、昔は山で見つけると蹴飛ばしていたというのですから驚きです。ところが、日本人の移民がロッキーやカスケード山地の松などを伐採していたときに松茸を見つけ、日本人が松茸を食べることを知り、日本向けに出荷するようになりました。
 「香り松茸、味しめじ」といわれるように、松茸は香りが命。しかし輸入物は香りが乏しく、香り豊かな国産品はわずか2割弱しかありません。あまりにも高級になってしまった松茸は今となっては庶民にはあまり縁のない食べ物ですが、戦後までは松茸ご飯やすき焼きに入れて食べるなどごく一般的な食べ物でした。
 松茸が食卓から消えた原因は実はプロパンガスにあるといわれています。昭和30年頃からプロパンガスの製造が始まり、山間部まで薪炭を使わなくなってしまったのです。それまでわが国では松の葉に火をつけて炭を起こし、薪を燃やして煮炊きをしていました。プロパンガスの普及で松の葉が不要になり、松茸ができる赤松の根元には微生物や小動物が繁殖して松茸が山から追い出されてしまったというわけです。
 プロパンガスの普及とともに人ひとの暮らしは文化的になりましたが、その反面、食生活が乏しくなってしまったなんてなんとも皮肉な話です。ほかのきのこ類と違って人工栽培ができない松茸はまさしく貴重品。炭火焼きした松茸にカボスをぎゅっと搾ってアツアツを頬張る・・・・・なんてことは、今では大変ぜいたくなお話です。


※参考文献
「にほんのにほん/べルメゾン刊」「グルメの哲学/丸山学芸図書刊」「旬の食彩百景/時事通信社刊」