第二回


三月二十三日 火 雨冷気。

 Sと短いいさかひをする。父さんの病気を思はなければ 、もつと激しくいつてやるべきであるが……… 午後不二子さんとも森さんの家を見に行く。地坪は六百近くあり、家は四十数坪で九室。しっかりとマッシーヴに出来ている。私たちだけではとても住みきれないが、モキの家族と同居し、またSが上京の度に腰をすえるには十分ゆとりのある建て方である。非常な無理をしてもぜひ買はなければならないとは考へないが、買つておけば便利で、なにかに都合のよいことだけはたしかである。

 山から出してくれた貨物の箱がとどいた。
 雨にぬれてほほ笑む桃の花美し。

 
三月二十五日 木 微陽冷
  半田さん来る。理事会の報告。家の買ひ入れのことはなす。彼も買つておく事をすすめた。 父さん名義でなく、息子の名義にする場合の細かい注意をきいて得るところあり。価格も森家のいひ分と彼の見立てと大差ない。買ひ入れまでに学校の金を利用さして貰へれば、勧銀で三十万は借りうるし、キャッシュで同額はもつているし、学校からは大した借金しないですむし、しても間もなく返金される。午後児玉正勝訪。玉子一カゴ、朝は能楽塾よりこれもタマゴ
 
三月二十六日 金 晴
 朝北軽の望月来る。岳陽書房表紙を持参
 おのぶさん来る。焦茶のキンシャの袖をちぢめたのを持参。ここのひろ袖の綿いれをしてくれる。私にハイ給のサトウをもつて来てくれた。午後父さんと森さんの家を見に行く。父さん流に批判的ではあるが、頭からダメといはないから買ふことに不賛成では無いことがわかる。帰つてみると、おしゆんさんが油をもつて来ていた。先は一升九00のところ二十円ネあがりとなる。

 


日記
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