第七回


七月三日 土 晴

 起きしてご飯をたき、おみおつけをたきすっかり支度出来たところへみんなが揃ってついた。父さんが考えていた以上に元気な様子になったのもうれしいことである。三千子春よりはまたずっと成長して手がかからず、Y・Mもなかよくたのしさうでこれもうれしい。朝食は御飯におみおつけに、ヤマメの煮びたし。おヒルはパンもすっかり用意してあり久しぶりに食事毎ににぎやかに話してたべた。松崎さんが午後注射に来てくれる。片山夫人玉子五つ持参。
 
 角の家は浄水装置の修繕はすでにすみ、今日あたりから屋根裏の直しで大工たちがはいるらしい。
 修繕といへば早速数人のそれぞれの専門の職人がそろってくるのも、父さんの今の地位 のおかげである。窓掛けやコタツのヤグラをもつて行つてしまったとの事は約束ちがひとの話。しかし窓掛けは竜村の手で却つてよいものが入手されるとのこと。近くに小山さんも家を買つた。もと中野セイ吾のいた家。応接や客間だけおそろしくきらびやかな成金趣味の家とのこと。地つきで百五十万。それに比べれば土地なしでもうちの方がずつと感じよく出来ているとの批評也。夜は疲れて眠くて眠くて床についたのが、そのあとも家の話つづいておそくまでおきていた。あの家に気もちよく住んでいくことには父さんにも深い悦びであるらしい。

 
七月九日 金 晴
 つもは見送つたことがないが、今日は父さんと北軽までいつしょに行く。
 一つは大丸でいろいろ買ひものする為である。今度の病気の名残りとして生理的にその跡をとめているものは他にはなく、ただ歩行が前ほどかけ構いなくできない点である。
  それもほんの僅かながら-----それを考慮して今朝も早く出掛けたので、駅につくまでに大丸での買ひものをすます。玉 子二〇-----これは昨日安東氏に金を渡して頼んでおいたもの-----1ヶ15.50銭、玉 ねぎ一貫目130円、ナス十箇45円、トマト五つ60円-----二つ父さんが汽車のたべものに持つて行き、残りの三つを入れるのを忘れてきた-----その他電球やコショオ ニンジンなど-----駅では田中丸の細君が帰るのを送るとていろいろなレディスが来ていて、エチケット交換。

  駅でYからの手紙を受取る。大工の手入れすでに完了とのこと。
  あとはタタミと唐紙とカベですっかり修繕が終わる。森さんがとつていつたカーテン二組だけは返して来た由。竜村で好もしいものが実費で手に入るらしいが、それは階下の食堂のにあてて、他は古いのですませておいてもよからう。

  とにかく秋にこの山を放れることも、この家を見るといふたのしみの為に、未練もいくらか減ずるかも知れない。それにしても仕事のことだけは邪魔されずにつづけなければならない。-----

日記
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