『騎士物語』の読み直し終わる。
昨日の大雨で下の小川の水が嵩と幅を増し、二階から眺めると立派な河になって庭の縁を巡っている。この庭にこんな水まであることは風致上問題のない点景である。クリがどっさり落ちた。植木屋の見積もりでは一斗位はありそうとのこと也。三枝子、三千子も来て、みんなで栗を拾った。
庭でこんなたのしみをしたのは、それでも朝から私にははじめてのケイケンである。全く思えば世の中は不思議なものだ。父さんの病後の二度目の散歩に外観から見てひどく美しいと思った家が今自分の所有に帰し、それが東京の生活を再建するに役立って、大きな満足と期待で私たちを住まわせている。
現在の家不足で、一軒の家に何家族も同居を余儀なくされている中に於いては、これは特別の恵みである。この運命の寄与にたいしては、どこまでも慎ましく身を守って、最善の生活をしなければならぬ。それに私には便利で美しい家で安愉をむさぼらず、今までの精進と努力でよいものを書くほかに方法はない。
ヒル頃××××氏来る。小山書店を退いた話。
太宰治について井伏氏が書いた日記を、今度の小山の「知識人」にのせようとして彼が努力したことが納められなかったのが直接の原因であるが、要するに彼と××との対立からのイザコザらしい。とにかく八年の間、小山の店で働いた彼が今そんなことで退くことは双方に好ましいことではないし、彼も強いことはいっても、今の苦しい経済生活の中で一時でも職を失うのは可哀そうである。これから小山邸を訪ねて、奥様に事情を述べるという彼について父さん(夫)も一緒に行ってあげた。
|