そのあと矢崎夫妻が来られた。
九州からの引越し大変であった話。
それより今の家が三間しかなく、それがひどい環境の中でおきのどくな有様らしい。就学問題も大変で、上のみち子さんは青山学院に入れたがそれが少なくとも月千円はかかり、あとの五人がそれぞれ通学するには、大学教授の六千円では学校にもまんぞくにやれないわけとのこと。家をひどく誉めてくれる。彼に誉められるのは、他の一般の人の賞賛よりもっと確かで嬉しい。
しかし、彼らの家のひどいのを聞かされると少しすまない気がする。ことに女の亮子さんには。引き留めたかったけれど、今夜は境野夫婦を招くために台所ではその支度をはじめており、そこと客間をとび歩く有様で、やっとお菓子とコーヒーのおもてなしに終わる。北軽井沢の蜂蜜と栗とトーストをお子さん達のお土産にして貰う。矢崎さんのいるとき末弘さんが玄関まで。お孫さんと子羊を見に来たついでとのことでほんの立ち話。
彼女たちもここを通る度によい家だといって、かねがね誉めていた家とのことなり。
はじめの一瞥でもっとも使用価値があるに違いないと私が考えた玄関がわりのコーナーの小応接は、全く100%の効果を上げている。今朝はここで実業之日本の神田氏を迎え『騎士物語』の原稿を渡す。クリスマスまでには出来る予定。
境野夫婦はゴモク御飯におそうめんに、オムレツ、酢の物だけであったが、それでとにかく留守番役の慰労の気持ちだけは果たされた。小山さんの小さい娘がオハギを一重とどけて来たので、Y・Mのところへ4つ分ける。そんなことも隣に住めばである。境野夫婦が帰った後、彼ら三千子を連れてちょっと来る。
今夜は中秋名月とのこと、二階のテラスで月を見る。銀灰色の塊雲が多く、その間からちょっと現れては隠れた。なにか山で見るより小さい気がする。
植木屋斉藤今日にて仕事すべてすむ。
一万四千円支払う。Y・Mの所の垣根をこしらえたり、湯殿の前の直しをしたり、またこちらのおへッツイの周りに板かこいしたり、色々細かい仕事もしてもらった。
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