中川さんのところから運送屋二人に書棚を届けさせて来た。送料は先方で支払ったとの事故、お礼として「ギリシャ・ローマ神話」を帰るときにことづける。ホールの壁の前に据えられると、書棚の重々しい美しさが一段と引きたった。残念なことはこの書棚にふさわしい立派な洋書を焼いてしまった事だ。それでも夏目先生の署名入りの初版の創作などをつめて見ると、相当見事である。
この壁の、なんとなく気になった空虚感がこれで消え失せ、この気持ちよくおちついた部屋の重味を考えてみた。
今までは何万出しても手に入りにくいこんな品が、易々と、それも原稿紙十枚あまりの金で所有に帰したのは、この家の幸運な入手とともに、誠に恵まれたことと思はなければならない。
家もそうであったが、この書棚も不二子さんが手引きとなったわけ故、午後丁度昨日京都からとどいた抹茶の封切りをかね、彼女をお茶に招いた。市河さんもちょっとのぞきに来る。
成田さんという予科の生徒がナマコ三本持参。同時に暮れに頼んだ餅代三千円のうち五百円戻して来た。彼の家がモチ屋で、モチ米代だけしかとらないのらしい。木幡の林屋さんにお茶の代金を送る。Sへ手紙かく。酒井さんの娘さんに「ハイヂ」送る。
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