第17回

昭和24年 二月五日 土 晴

 うすっかり春の暖かさで、庭の梅が三分咲いた。

迷路第三部の第三として『青い夢』にとりかかる。二枚進む。しばらくペンをおいて、十分なアタマ休めをしたわけだ。これから毎日続けるうちには自然に一つの世界が出来上がるだろう。

 
二月六日 日 晴

 日も仕事少々。

梅四分ぐらい花咲く。

 
四月二十日 水 晴

 夏のような陽気に急になった。

今庭に咲いている花の木、ザイフリ木、蘇芳、シジミ花、桃。梨もやがて花になろうとしている。謙…(以下空白)

 
六月二十四日 金 晴、夕方しばらく雨
 Sの荷物夕方とどく。おのぶさんが父さんのワタ入れのキモノ羽をり、私のふだんのアワセを縫い直してきた。夏物の袖を詰めて貰う。午後小林小百合ちゃん来訪。
 ロトンダの前の芥子が花盛りで美しい。この家が移転当時には欠いでいて家に飾られてますます美しくなる。
 ざくろの花も樹いっぱい朱の灯りをともしてをり、栗は青白い、なにかクモ型の花をつけた。
 
七月十二日 火 晴

 具屋がベットの残りの材料で私のために小屋の書物机と椅子を造って、日暮れまでにやっと完成。私の長い文筆生活に於いて、『北軽』以外には自分の書斎というものをもたなかったように、私の特定の机、椅子を造らせたり、極端にいえば、もった事さえなかった。

 の年になってようやく手に入れたのが、廃物の木材で白木の、フシや欠けのある椅子。テーブルであるのが、哀れなより何かおかしいくらいである。保坂を保谷にやってフトンと整理ダンスをつんで来させる。それぞれに入れ物を納め、アトリエにおく。
 モキチロ一家が去った後、私は今この部屋を使っている。


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